青空に向かって伸びる煙突。
その先から吐き出されていく黒い煙。
煙になってしまった、あなた。

あの煙は駄目な私に優しく笑いかけてくれたあなたの顔。
あの煙は泣いた私を力一杯抱き締めてくれたあなたの腕。
あの煙は怒った私を必死で追い掛けてくれたあなたの足。

あなたは灰燼に帰し、煙になって天に昇るのでしょう。
風に乗って空を舞い、やがて散り広がって大地に還るのでしょう。

あなたの身体は灰になってしまったけれど、まだこの星にあるのですね。
あなたの心も身体からは離れてしまったけれど、私の内にまだあります。

あなたはまだこの世から完全に消えてしまったわけではないのですね。
あなたはこれからも生きていく私を見守り続けていてくれるのですね。

そこから私が見えますか?
あなたを見上げる私が見えますか?

私、泣いていませんよ。
もちろん哀しいし、寂しい。
でも泣くより先にすることがある気がしますから。

私はこれから逞しく生きようと思います。
あなたが見ているので、弱いところは見せられません。

私はまた愛する人、愛してくれる人を見つけようと思います。
でも、そうなったら見ているあなたは妬いてしまうかもしれませんね。

私は幸せになろうと思います。
あなたの死によって私が不幸となるなら、あなたが悲しむでしょうから。

私の愛したあなた。
死んで煙になってしまったあなた。
少しだけ、目を瞑ってくれますか?

煙が目に染みて涙が出てきてしまいました。


あとがき

 この詩も『髪結いの亭主』と同じく櫻田さんのサイトにある100のお題の1つ。2003年11月30日現在、胸を張って発表出来る僕の最高傑作です。
 副題は『煙になってしまったあなたへ』。若くして恋人、もしくは旦那さんを無くしてしまった女性が煙突を見上げて、煙になって天に登っていく煙に心で話し掛ける詩です。
 僕は死を見て泣くことはありません。泣いて悲しみに暮れるより、死んだ人の為に何かできることがあるんじゃないか、と考えているのです。実際、それを考えて、できることができた試しはないんですけどね。

 話は変わりますが、物理学的にいうと、僕らの肉体は永遠に存在することになるんです。燃やしたって灰になるだけで、有が無になる訳ではないし、極論をいうと太陽が地球に落っこちてきても、原子レベルに分解されるまでで、あとは宇宙空間に漂って存在出来るのではないかと。

 要するに、この詩は僕の死に対する考え方を一杯に詰め込んだ作品だと考えて下さい。


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